
フルマラソンを走ったことがある方なら、一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
・30kmを過ぎたあたりから急に脚が動かなくなる
・呼吸は大丈夫なのにペースが落ちてしまう
・前半は順調だったのに後半で大失速する
この現象は一般的に「30kmの壁」と呼ばれています。
ではなぜ、多くのランナーが30km前後で失速するのでしょうか?
この記事では
・マラソン後半で失速する理由
・「30kmの壁」の正体
・失速を防ぐための対策
・持久力を効率的に高める方法
について、運動生理学の視点から解説します。
なぜマラソンは30kmで失速するのか?
フルマラソン後半の失速は、主に次の3つが重なって起こります。
- エネルギー不足
- エネルギー効率の低下
- 筋肉の疲労
それぞれ解説します。
①エネルギー不足(グリコーゲン枯渇)
ランニングでは主に糖質(グリコーゲン)と脂肪をエネルギーとして使います。
しかし問題になるのが糖質の貯蔵量の少なさです。
体内に蓄えられる糖質は
・筋グリコーゲン:約300〜400g(1,200~1,600kcal)
・肝グリコーゲン:約80〜100g(400kcal)
合計しても約1600〜2000kcal程度と言われています。
一方、フルマラソンでは2500〜3000kcal程度消費します。
つまり体内の糖質だけでは足りなくなり、いわゆるガス欠(ハンガーノック)が起こる可能性があります。
補給すれば失速しないのか?
「補給すれば走れるのでは?」という疑問を持つ方も多いです。
確かに補給は非常に重要ですが、補給だけで完全に失速を防げるわけではありません。
まず、補給した糖質はすぐにエネルギーとして使えるわけではありません。
糖質は「消化→吸収→血液→筋肉」というプロセスを経るため、実際に利用できるまで20〜30分程度かかると言われています。
つまり、ガス欠になってから補給しても遅い場合が多いのです。
さらに、小腸で吸収できる糖質量には上限があります。
一般的には1時間あたり約60g程度と言われています。
最近では糖の種類を組み合わせることで90g/h程度まで摂取できると言われていますが、それでも消費エネルギーを完全に補うことは難しいのが現実です。
②エネルギー効率の問題
マラソンでは「エネルギーをいかに節約するか」が非常に重要です。
同じペースで走っていても、ランナーによって糖質消費量は大きく異なります。
ここで重要になるのが
・脂質代謝能力
・ミトコンドリアの働き
・酸素運搬能力(赤血球や毛細血管の働き)
です。
脂質代謝能力とは、脂肪をエネルギーとして使う能力です。
この能力が高いと、糖質を節約しながら走ることができます。
ミトコンドリアは細胞内にあるエネルギーを作る工場のような存在です。
持久系トレーニングを続けることでミトコンドリアの数や活性が高まり、長時間の運動に強い身体になります。
また、酸素を肺から血液、そして筋肉へ運ぶ能力が高いほど脂質代謝が働きやすくなります。
これらの能力が高いランナーほど、同じペースでもエネルギーを効率よく使うことができます。
③筋肉の疲労
30km以降では
・大腿四頭筋
・ハムストリング
・ふくらはぎ
などの筋肉に疲労が蓄積します。
ちょうど筋肉に貯蔵されているエネルギー源も不足し、その結果、ストライドが小さくなったり、接地が重くなったり、フォームが崩れることでペースダウンにつながります。
マラソンでは「乳酸閾値(LT)」も重要
持久系競技では、パフォーマンスを決める要素として
- 最大酸素摂取量(VO₂max)
- 乳酸閾値(LT)
- ランニングエコノミー
の3つが重要と言われています。
特にマラソンでは乳酸閾値(LT)が非常に重要です。
LTとは、乳酸が急激に増え始める運動強度のことです。マラソンのレースペースは一般的にLTより少し低い強度で走ることになります。
つまり、LTが高いランナーほど速いペースを長時間維持できるということになります。持久力トレーニングでは、このLTを高めることが重要です。
そのためにはトレーニング負荷を最大心拍の85〜90%前後に設定するといいと言われております。
心拍数を目安にしたトレーニングについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
→「心拍ゾーンを使った持久力トレーニング」
失速を防ぐための2つの戦略
マラソン後半の失速を防ぐには、大きく2つの対策があります。
早めのエネルギー補給
ガス欠を防ぐためには、スタート直前にエネルギーゼリーの摂取、その後は10㎞ごとを目安※に、こまめに早めから補給を行うことが重要です。
※消化吸収には個人差があるので、事前の練習から自分に合った補給タイミングを検討することが望ましいです。

身体能力を高めること
脂質代謝能力、ミトコンドリア機能、酸素運搬能力、乳酸閾値(LT)といった能力を高めることで、同じペースでもエネルギー消費を抑えながら走ることができます。

また、マラソン後半の失速には脳が運動を制御する「司令塔」として働いている可能性も指摘されています。マラソンの失速と脳の関係については、今後、記事にて解説していきます。
→「マラソンの失速を決める“司令塔”とは?」
そこで注目されている「低酸素トレーニング」
近年、持久系アスリートの間で注目されているのが低酸素トレーニングです。
低酸素環境では身体が「酸素が少ない」と感じるため
・心肺機能向上
・赤血球増加
・ミトコンドリア活性
・酸素利用効率向上
などの適応が起こります。
その結果、持久力向上や脂質代謝能力の改善、LT向上につながると報告されています。
つまり、マラソン後半の失速の原因にアプローチできるトレーニング方法と言えます。
枚方で低酸素トレーニングを体験するなら
枚方市楠葉にあるLoco&O2では、低酸素環境を利用した持久力トレーニングを提供しています。
心拍数を目安にしたトレーニングや短時間でも効率的に心肺機能を刺激するプログラムを行っており、ランナーの持久力向上にも活用されています。
マラソン後半で失速してしまう方や、サブ4・サブ3.5・サブ3を目指すランナーの方は、ぜひ一度低酸素トレーニングを体験してみてください。

まとめ
マラソン後半の失速は、単なるエネルギー不足だけではなく
・エネルギー効率の問題
・筋肉の疲労
・乳酸閾値(LT)
・中枢疲労
など複数の要因が関係しています。
対策としては、早めの補給に加えて、持久力を高めるトレーニングが重要になります。
低酸素トレーニングは、脂質代謝能力やミトコンドリア機能、酸素利用効率などに影響し、持久力向上の一つの方法として注目されています。

